Forty Three point Two

やってらんねえよな

クリスマス前 職場にて

「クリスマスはさ、なにするの?」と、ボスが聞いてきた。僕は職場にいた。大学が休みの間、事務の仕事を得ていた。それは、渡される書類の束に必要事項が記入されているか確認し、時に帳簿に転記したり、時にコンピュータに入力したりする仕事だった。簡単な仕事だった。そして、とても暇な仕事だった。一時間に一度、書類の束が渡される。それをさばくのに30分ほどかかる。が、終わってしまえば他にすることはなかった。次の書類の束が来るまでの間、僕は暇そうに時計を眺めたり、頬杖をついたり、電卓で来月入るであろう給料の計算をしたりしていた。ボスとその部下達はは、忙しそうに動き回っていたけれど、僕に任される仕事はそれきりで、ただ邪魔にならないように自分のデスクで縮こまってるしかなかった。それでも、ボスは自分の食事を取る合間に、僕に構ってくれた。

バイトですよ」と僕はクリスマスの予定を告げた。夏休み前から初めて、辞めよう辞めようと思いながらクリスマスまで続けている、アルバイト。その返事を聞いて、ボスは不満そうだった。「クリスマスなんだからさ、作ろうよ、彼女をさ」と続けたボスに、僕は小声で「彼女はいますよ」と伝えたが、ボスの耳には届かなかったらしく、その後もボスはブツブツと小言を言っていた。

 世の中はクリスマス一色だ。どんなお店に行っても、クリスマスソングが流れている。そして、世間はクリスマスをパートナーと過ごすものだと、勝手に意識している。誰も、そんなことを強要していないのに、ひどい自意識で、1人ぼっちの自分を攻め続ける。どうしようもないその自意識の矛先は、自意識の域を超え、他人に向かっていき、きっと誰かを傷つけるのだろう。

 僕はボスの小言を聞きながら、クリスマスだから恋人になったわけでもないし、クリスマスだからそばにいるわけでもないのにな、と思った。クリスマス恋愛至上主義のみなさんは、クリスマス以外は恋人と会わないのだろうか、なんてくだらないことを考えながら、残りの仕事を終わらせた。

 職場を出た僕は、昼間の暖かさにかまけて薄着して来たことを後悔した。